京王電鉄バスグループ様

FCVは次世代の公共交通を担う、
充分なポテンシャルを持ったモビリティ。
京王電鉄バス株式会社
安全技術部 部長 田井 豊典様
安全技術部 技術担当 小島 拓也様
2020年から2026年にかけ、合計10台のFCバスを導入したのが京王電鉄バスグループ(京王電鉄バス株式会社・京王バス株式会社)です。住宅街での走行や学校輸送などの場面でもFCバスは大活躍。導入から5年の歳月が経ち、その滑らかな加速性能と静粛性を武器に走り続けています。同グループにおいて水素モビリティがどのように利活用されているのか。導入経緯や運用状況をおふたりのキーマンに伺ってみました。
- クリーンな水素モビリティで地域公共交通の脱炭素化を推進
- FCバスは公共交通に最適。航続距離・乗り心地で日常運行をサポート
- 特別な乗車体験が新たな付加価値を生み出す
地域の公共交通を支えるFCバス
導入の発端は持続可能な社会の実現にあり
「京王線」と「井の頭線」。この2つの鉄道網の運営を基幹事業とする京王グループにあって、地域の路線バス事業、高速バス事業・貸切バス事業、バスターミナル事業の4事業を担うのが京王電鉄バスグループです。同グループは各種バスの運行を通して首都圏および沿線地域の公共交通サービスを支えています。

田井さん「京王グループが目指すサステナブルな社会。これを実現してゆくために、ハイブリッド、EV、FCVなどの次世代車両を逐次投入していくのは自然な流れでした。従前から営業車の脱炭素化は我々の責務だと考えていたのです。具体的には2019年頃、トヨタ自動車さんからFCバス〝SORA〟をご案内いただいたことが契機となりました。その上で、当社グループの多摩営業所からほんの数百メートルの距離に水素ステーションが新設されたことも、これを後押ししました」

小島さん「京王グループでは、脱炭素に関して2030年度のCO2排出量を2019年度比で30%削減するという数値目標を掲げています。そこで、既存のディーゼルエンジン車を環境にやさしい車両へと段階的に置き換えていくことになったのです」
その先陣を切ったのはハイブリッド車でした。しかし、ハイブリッドの強みはあくまでも低燃費であること。燃料消費抑制によってCO2排出量は大幅に低減できるものの、結局はディーゼルバスの延長線上にあり、抜本的な解決にはならないと考えたのだそうです。
田井さん「検討対象に挙がったのがEVバスでしたが、当社グループではFCバスの導入が先でした。EVバスが電力会社から供給される電気を用いるのに対し、FCバスは水素で電気をつくって走行します。水素ステーションが近くにできたという好条件が重なり、FCバスであれば走行中にCO2を一切排出しないバスの導入がより早期にできると考えたのです」
やがて、2020年には京王電鉄バスグループ初となるFCバスを導入し、毎年1~2台ずつ増強。水素ステーションがある多摩、八王子エリアを中心に、現在は多摩営業所、桜ヶ丘営業所、高尾営業所、南大沢営業所の4拠点に配備された10台のFCバスが活躍しています。

FCバスのスペックは想定以上
人員輸送に適したモビリティ
同社グループのFCバスは、かつて都心部に近い杉並区の永福町営業所でも運用されていました。実証走行を続けていくうちに、燃料となる水素充填体制の整備というテーマが浮かび上がります。
田井さん「当社グループの営業所には、いずれもディーゼルバスの燃料となる軽油をいつでも補給できるよう専用スタンドが設けられています。一方、FCバスは外部施設での燃料充填が必須。永福町営業所の場合は、湾岸部に開設された水素ステーションへの回送が不可欠でした。担い手不足の中、燃料充填のために乗務員を確保することは、営業所と水素ステーションを往復する際の燃料ロスよりも大きな課題でした」

小島さん「ディーゼルバスは、1台あたり年間で約4万kmを走行し、同時に約40〜45tの温室効果ガスを排出します。仮にFCバスをディーゼルバスと同じように運用した場合、これらの排出量が丸々削減できるという計算になります。つまり、水素ステーションが増えればFCバスへの置き換えが進み、その分CO2の排出が抑えられるわけです」
現状は、インフラ整備の進行度に合わせたさまざまな運用方法を探りながら、一つひとつ実績とデータを積み上げているステージとのこと。それでもおふたりは、FCバスの性能そのものに「大きなウィークポイントがあるとは思わない」といいます。
田井さん「ディーゼルバスは軽油を満タンにして約300kmは走れます。EVバスは100〜150km、FCバスなら200km台は走らせることができます。当社の路線バスは1日の運行で、最も長いルートでも160〜180km。FCバスなら十分に対応が可能です」
小島さん「既存のSORAに代わり、そろそろ新型車が市場に投入されると聞いています。現在のFCバスに搭載されるモジュールは、乗用車(トヨタ自動車のMIRAI)向けのものが使われていますが、最新型は商用車専用モジュールに換装される予定だとか。寿命や耐用年数がさらに向上すると予想されます。車両性能の進化は今後も進むと思うので、そこに対して懸念や不安はないですね」


また、多摩、八王子エリアの地域的特徴もFCバスの運用に好影響をもたらしています。
小島さん「このエリアには高校や大学といった教育機関が数多く所在しています。いわゆる学校輸送がメインとなるルートでは、朝夕の通学時に多くのお客様のご利用が見込めます。もちろん、それ以外の時間帯も、住民の皆様の生活路線としてご利用いただいております。このルートは勾配の激しい山道が多く、学校が山の頂にあることも少なくありません」
ディーゼルバスは発進時やギアの変速時にどうしても揺れが生じてしまいます。その点、FCバスは急な坂道の途中にある停留所からのスタートも滑らか。持ち前のパワフルさと優れた乗り心地は、快適な走行の実現のみならず、お客様の安全や事故防止にも繋がっています。

小島さん「通学のピーク時、車内はほぼ満員状態。坂道では相応のパワーが必要となりますし、変速の際の車両の揺れにも配慮した繊細な運転が求められます。これは乗務員にとってかなりのストレスなんですね。FCバスはお客様を乗せて走るバス輸送にとても向いていて、次世代の公共交通を担うに十分な潜在力を持ったモビリティといえます。EVもFCVもいまだ発展途上。朝晩のラッシュ時間帯にはEVバスを短距離区間にサポート的に投入したり、比較的長い区間にはFCバスを用いたり。それぞれの特性を鑑みながら、適材適所で役割を分担させたいと考えています」
特別な「乗車体験」が
新たな付加価値の創造に
お話を伺っていてとても印象に残ったのは、FCバスに乗車することの特別感でした。
小島さん「わかりやすく申し上げれば、FCバスはカッコいいという声をよく耳にするんですね。お客様からもそういったご意見をいただいております。環境に配慮した乗り物であるというイメージと同時に、ディーゼルバスとは異なる乗り心地を味わえる点は、水素モビリティにとって大きな強みではないでしょうか」
田井さん「これは、新たな付加価値の創造につながる可能性の一つだと考えています。私たちは路線バス事業に加え、バスターミナルを運営する事業、そして高速バスや貸切バスを運行する事業も手掛けています。現状は、高速・貸切バスの分野で活用できる車種がラインナップとして存在していないのですが、今後、航続距離が伸びて都市間輸送が可能になれば、より多くのお客様に静かで快適な〝乗車体験〟をご提供できることになります。単なる移動手段としてではなく乗車そのものが旅の楽しみになる。やがてはそんな日がやってくるかもしれませんね」


例えば、空港連絡バスは、将来的にもFCバスの運用が視野に入る好適なルートの一つなのだとか。燃料充填を空港近くの湾岸部で行えるうえ、加減速の多いこの区間ではFCバスの走行性能の高さが遺憾なく発揮できそうです。
田井さん「導入にあたっては課題もございます。大きな荷物やトランクを預けられるというお客様のメリットを損なわない、十分な荷室スペースを確保した新型車の登場が待たれます。そして、なによりも期待したいのは水素ステーションのさらなる整備・拡充です。FCバスの運用台数は、水素ステーションの数や供給能力に応じて拡大していくと考えています」
こうした課題が解決に向かえば、活躍の場はもっと広がるはず。それには、水素社会の実現にコミットメントするインフラ事業者が増え、行政や地域、活用企業の連携が重要といえるでしょう。

田井さん「水素モビリティの普及における東京都の熱意ある取組の数々は、我々にとって心強いものです。私たち交通事業者も率先してFCバスの利活用に取り組んでまいります。これが呼び水となり、結果として社会全体のカーボンニュートラルの実現につながっていけばいいですね」
企業プロフィール
- 会社名
- 京王電鉄バス株式会社
- 所在地
- 東京都府中市晴見町2-22 京王府中晴見町ビル
- 事業内容
- 乗合バス事業、貸切バス事業、バスターミナル事業、その他
- 従業員数
- 508名(2025年3月時点)
- 取材撮影
- 2026年2月
企業プロフィール
- 会社名
- 京王バス株式会社
- 所在地
- 東京都府中市晴見町2-22 京王府中晴見町ビル
- 事業内容
- 乗合バス事業、貸切バス事業
- 従業員数
- 1,558名(2025年3月時点)
- 取材撮影
- 2026年2月